不動産賃貸借契約における連帯保証人の極度額はどのように定めればよいか

不動産賃貸借契約における連帯保証人の極度額はどのように定めればよいか

〔極度額の定めのない個人根保証契約の無効〕
 2020年4月から改正民法がスタートし、個人根保証については、「極度額」(要するに、「保証人の責任は〇万円まで」という上限)を定めていない場合、個人根保証契約は無効(つまり、保証人として一切責任を負わなくてよい)ということになりました(いわゆる極度額ルール)。
 マンションやアパートなどの不動産賃貸借契約で言えば、これまでは特に上限を定めない形で、賃借人の身内や知人などの個人が連帯保証人となり、賃料の滞納などがあった場合には、保証人に支払をしてもらうことが当たり前でした。しかしながら、2020年4月以降は、賃貸借契約において、これまでのような上限の定めのない個人の連帯保証では保証契約として無効となりますので、保証人がいないのと同じことになります。

 

〔極度額をいくらにすればよいのか〕
 保証契約において極度額を定めなければならないとして、具体的にどのくらいの額にすればよいのかについては、一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会(全宅管理)が実施した、会員を対象としたアンケート調査では、賃料5万円と仮定した場合、30万円以下が16%、30万円超~60万円以下が25%、60万円超~120万円以下が30%、120万円超~180万円以下が4%、180万円超が5%で、多くの会員が「賃料の2年分である120万円」もしくは「賃料の1年分である60万円」と回答したとのことです。そして、現在の実務を見てみると、極度額の相場としては、賃料の1~3年分の範囲で設定し、特に2年分とするところが多いようです。
 もっとも、民法上は、極度額を定める必要があるとされているだけで、金額的にいくらまででなければならないという制限は明記されていません。となると、「大は小を兼ねる」で、とにかく高めに極度額を設定しておけばいいのではないかと思われる方もいるかもしれませんが、あまりにも極度額が高額過ぎると、極度額の定め自体が公序良俗違反などで効力が否定されることになり、結局、保証契約が無効になってしまうリスクがあります。

 

〔具体的な極度額の記載の仕方〕
 極度額の定めについては、その具体的な記載の仕方にも注意する必要があります。
 例えば、単に極度額の欄に「賃料の○ヶ月分」とだけ記載している例もありますが、賃料は、賃貸借契約の長い期間において増額したり減額したりと変動することがありますので、この記載だけだと極度額の金額が確定していないことから、定めが無効とされる可能性が出てきます。
 したがって、具体的な記載としては、①具体的な金額で定める(「○万円」)か、②「契約当初の賃料の○ヶ月分」という形で「当初」の賃料額で決めるなどとする必要があります。

 

〔2020年3月以前の賃貸借契約と極度額ルールの適用〕
 改正民法で定められた極度額ルールは、基本的に2020年4月以降の契約に適用されますので、2020年3月以前の契約については改正前の民法のルールに従うことになります。
 では、2020年3月以前になされた賃貸借契約について保証人がいる場合にはどのように考えればよいのでしょうか。
 まず、2020年4月以降に「賃貸借契約」が更新(合意更新を含む)された場合ですが、特段の事情のない限り、保証人は、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責任を負うという最高裁平成9年11月13日判決をベースに考えると、賃貸借契約の更新後も、2020年3月以前の保証契約の効力が及んでいると考えられますので、保証契約には改正前の民法が適用される(=極度額ルールは適用されない)ことになり、極度額を定める必要はないことになります。
 これに対して、2020年4月以降に、改めて「連帯保証契約」をし直した場合は、連帯保証契約に改正民法(極度額ルール)が適用されますので、極度額を定めなければならないということになります。

(2022年8月23日)