製品事故による損害の発生と製造物責任法(PL法)

製品事故による損害の発生と製造物責任法(PL法)

〔何のために製造物責任法が作られたのか〕
 製品に何らかの欠陥があり、それによってケガなどの損害が生じた場合に、製造業者であるメーカーの責任を追及することが考えられます。
 この場合に、購入者がメーカーから直接製品を購入していれば、購入者とメーカーとの間に売買という契約関係があることになりますので、購入者は、メーカーに対して契約上の責任(債務不履行責任・契約不適合責任)を追及することになります。
 これに対して、多くのケースでは購入者はメーカーから直接製品を購入しておらず、メーカと購入者との間に契約関係がないことが多くあります。この場合、購入者がメーカーに対して責任追及をするために民法の定める「不法行為」という法律構成を用いることができますが、不法行為責任が認められるためには、欠陥の発生についてのメーカーの過失(不注意)を被害者が立証しなければならず、これは製品についての素人である被害者にとって高いハードルとなります。
 この点、製造物責任法(PL法)は、製品事故による被害者の救済をはかるべく、製品に欠陥があり、それによって損害が発生したことを被害者が立証すればよく、不法行為において求められているメーカーの過失を立証する必要はないとされていますので、被害者が責任追及をする際のハードルが少し下がることになります。

 

〔製造物責任法の対象となる「製造物」〕
 製造物責任法の対象となる物は「製造物」ですが、製造物とは「製造または加工された動産」のことで、原材料に人の手を加えることによって、新たに作り出された動産という意味になります。
 したがって、製造物にあたらないもの、例えば、不動産、電気・光・音などの無体物、エステなどのサービス契約、未加工の農水産物などは製造物責任法の対象とはなりません。

 

〔製造物責任法に基づく責任を負う者〕
 製造物責任法によって責任を負うのは、以下の5つのいずれかに該当する者とされています。

  1. 製造した者
  2. 加工した者
  3. 輸入した者
  4. 表示製造業者(製造はしていなくても、例えば製造元として自社の名前を表示するように、製造業者として製造物に氏名・商号等を表示した者)
  5. 実質的製造業者(「販売元○○」等の表示をし、その製造物の出荷検査をしたりするなど相当程度製造に関与しているような、製造、加工、輸入または販売に係る形態その他の事情からみて、製造物に実質的な製造業者と認めることができる氏名などを表示した者)

 

〔製造物の「欠陥」とは〕
 製造物責任法に基づく責任が発生するための要件の一つである「欠陥」とは、製造物が通常有すべき安全性を欠いていることで、一般的には、以下のように分類されます。

  1. 設計上の欠陥(設計そのものに問題があったために安全性を欠いた場合)
  2. 製造上の欠陥(部品の種類や組み立て方を間違えるなど、製造物が設計どおりに製造されなかったために安全性を欠いた場合)
  3. 指示・警告上の欠陥(製造物に関して注意すべき危険が存在するのに、取扱説明書や警告ラベルなどでその危険に関する適切な情報を示さなかった場合)

 前述のとおり、製造物責任法に基づく責任追及であれば、被害者は製造業者などの「過失」を立証する必要はありませんが、製造物に「欠陥」があることは立証しなければなりません。しかしながら、製造物についての素人である被害者が、製造物のどの箇所においてどのような原因で問題が生じ、欠陥の科学的なメカニズムがどうなっているのかまで立証しなければならないのであれば、責任追及のハードルは非常に高くなります。
 そこで、裁判例では、「通常の用法に従って使用していたにもかかわらず、身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張・立証することで、欠陥の主張・立証としては足りる」とされる(仙台高裁平成22年4月22日判決)など、「欠陥」の立証についても一定の配慮がなされることがあります。このような考え方によれば、被害者は、問題となっている製造物を通常予定されている方法で使用している間に、その製造物が原因となって異常が生じたことさえ証明できれば、「欠陥」が認められることになります。

 

〔製造業者などの責任が免除される場合(免責規定)〕
 以下の2つのいずれかを製造業者などが証明した場合、製造業者などは製造物責任法に基づく責任を負わなくてよいとされています。

開発危険の抗弁

 製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学または技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかった場合

部品・原材料製造業者の抗弁

 製造物が他の製造物の部品または原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき自社に過失がなかった場合

 

例えば、テレビの部品メーカーがテレビの製造業者の設計に関する指示に従って部品を製造したところ、その部品に欠陥が生じてしまった場合、部品に欠陥が生じたことについて部品メーカーに過失がない限り、部品メーカーは免責されるといったケースです

 

〔損害賠償の範囲〕
 製造物責任法によって損害賠償請求できるのは、拡大損害と呼ばれる損害が生じた場合に限られます。
 ここで拡大損害というのは製造物自体の損害以外に生じた損害のことですので、製造物の欠陥による損害が、その製造物についてのみ生じた場合は製造物責任法の対象外になります。
 したがって、例えば、電子レンジを使用していたところ、欠陥があったために爆発してケガをしてしまった(=拡大損害の発生)場合は、製造物責任法に基づく損害賠償請求ができます。
 これに対して、電子レンジを使用していたところ、欠陥があったために電子レンジが使えなくなってしまった(≠拡大損害)だけの場合、製造物責任法に基づく損害賠償請求はできませんので、民法の不法行為責任などによる責任追及をしなければなりません。

 

〔製造物責任法に基づいて責任追及できる期間〕
 製造物責任法に基づいて責任追及ができるのは、被害者が「損害および賠償義務者」を知ったときから3年(人の生命や身体を害する場合は5年に延長されます)以内で、かつ、製造業者が製造物を引き渡した時から10年以内とされています。
 ただし、この10年の期間については、医薬品による事故などのように、蓄積損害(身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害)、後発損害(一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害)の場合は、引渡し時からではなく、その損害が生じたときから10年を起算すればよいとされています。
 なお、ここで「引き渡した時」とは、製造業者などが市場に製造物を置いたときのことで、購入者に製造物を引き渡したときではありません。したがって、製造物が市場に出て、卸業者や販売店などの流通過程にある段階でもこの10年の期間は進行していくことになります。

(2023年2月9日)