亡くなった人に「債務」があった場合にどうなるのか

亡くなった人に「債務」があった場合にどうなるのか

〔プラスの財産がなければ「相続放棄」を検討〕
 誰かに対して何かをしなければならない義務のことを「債務」といい、例えば、借金をしていればお金を返さないといけない「貸金返還債務」を、交通事故で誰かにケガをさせていれば「損害賠償債務」を負うということになります。
 そして、亡くなった方がこのような「債務」を負っている一方で、プラスの財産(預貯金、不動産など)がほとんどないような場合(つまり、プラマイすれば大きくマイナスになるような場合)に、残された相続人は、通常は「相続放棄」をすることで、亡くなった方のプラスもマイナスも引き継がないことができます。
 しかしながら、亡くなった方に「債務」があるものの、それを超えるようなプラスの財産もあるような場合には、プラマイすればプラスになりますので、「相続放棄」をせずに、そのまま相続することが多くあります。この場合、当然ながら、亡くなった方が持っていたプラスの財産も、マイナスの財産である債務のいずれも、相続人は引き継がなければなりません

 

〔共同相続の場合に「債務」はどのように引き継がれるか ~不可分債務の場合~〕
 「債務」は、分けることができるか・分けることができないかで、「可分債務」(かぶんさいむ)と「不可分債務」(ふかぶんさいむ)の2つに分類することができます。
 まず、不可分債務というのは、性質上、分けることができない債務のことで、例えば、一つの物を引き渡す債務は、1つの物を分解して引き渡すことはできませんので、これにあたります。
 そして、不可分債務は分けることができない債務ですので、相続人が複数いる場合でも、それぞれの相続人が、全部について同じ債務を履行する義務を負うことになります。
 なお、賃料支払債務は、お金を支払う債務なので分けることができる債務(可分債務)のように見えますが、目的物全体の使用収益に対応している債務なので不可分債務として扱われます。そのため、賃借権を共同相続した相続人らは、それぞれが全部について履行する義務を負うことになります。

 

〔共同相続の場合に「債務」はどのように引き継がれるか ~可分債務の場合~〕
 借金や損害賠償債務のように、分けることができる債務(可分債務)について共同相続となった場合、不可分債務とは異なり、法定相続分に従って当然に債務が分割されて、それぞれの相続人に引き継がれることになります。
 例えば、200万円の借金をしていた親が亡くなった場合で、子ども2人が相続すれば、借金(貸金返還債務)は可分債務ですので、それぞれの子どもが、債権者に100万円(200万円を2人で分割した額)を支払う義務を負うことになります。逆に言えば、共同相続をした子ども2人のうち、1人が債権者に対して全くお金を支払わなかったとしても、もう1人の子どもがその分を負担する必要はありません。
 では、可分債務の負担に関して、例えば、相続人のうちの1人に債務全額を負担させるといった内容を遺言で定めたり、相続人の間で協議を行ったりして、法定相続分とは異なる内容の債務の負担割合とすることはできるでしょうか。
 このような負担割合の定めが仮に債権者にも効力があるとすれば、全く資力のない相続人に債務を集中させられたような場合、債権者は、非常に困ることになります。したがって、このような定めは、相続人の間のお金の調整という意味では効力がありますが、肝心の債権者との関係では、債権者のOKがないかぎり効力はありません。つまり、相続人は、このような遺言や相続人の間での協議内容を理由に、債権者に対して支払を拒絶することはできませんので、債権者は、それぞれの相続人に法定相続分に応じた金額を請求することができます

(2022年11月4日)