仕組債に関する金融庁の見解〔その1〕「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果」

仕組債に関する金融庁の見解〔その1〕「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果」

金融庁は、2022年6月に、「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」を発表しています。
この中では、仕組債の販売が「高金利を求める一定の顧客層」のニーズに対応したものと言われている点に関して、「こうしたニーズ対応とは矛盾する苦情も多く聞かれている」として、「株価指数や内外個別株価、外国為替に連動する商品は、十分な金融知識がないと、そのリスクやコスト見合いのリターンの理解が困難である中、リスクに見合ったリターンが確保されていないという商品性の問題」と「想定顧客層を具体的に明確にせず、比較的広い範囲の顧客に対して、コスト等の開示や比較説明が必ずしも十分でない形で提案・販売されているという販売体制の問題」が背景にあるとして、「顧客本位の業務運営の観点に適さない商品が販売されている可能性が否めない」としています。

 

〔金融庁が指摘した仕組債の「商品性に関する問題点」〕
①典型例である個別株連動型の仕組債(他社株転換可能債、EB債)は、相対的に高金利が設定される一方、通常の債券と異なり、当初予定の満期時に元本で償還される可能性は必ずしも高くない。

 

②EB債の商品性は、(ノックイン、ノックアウトの利用により)オプションの売りのポジション類似の仕組みを埋め込むことで可能となる。取引全体をみると、通常より高い金利の主な源泉は、株価が一定程度下落した場合(ノックイン)に顧客が大きな損失のリスクを負うことの対価(オプション・プレミアムに相当)である。
 また、相対的な高金利は、株式等であれば得られる値上がり益放棄の対価の側面もある。具体的には、株価(株価指数)が上がった際にノックアウトが生じ、その利益を得ることができず、早期に償還されてしまう。この点は機会損失であり、認識されにくい面であるが、ダウンサイドがある一方でアップサイドもある株や株式投信と異なる不利な点である。このため、EB債に対して株価の変動に伴う「利益限定で損失無限大」との指摘もなされる。

 

③ノックアウトに伴い早期償還した後に、買い替えが行われると、参照指標の株価が継続的に上昇し、いわゆる高値掴みになりかねないほか、ノックイン価格も上昇しがちである。
 この結果、最終的には(周期的に発生する)大幅な株価の下落局面で顧客が(それまでに高金利で得た利益以上の)大きな損失を被る可能性に繋がる。これまでの事例でもノックインは一定数発生しており、大きな損失が発生するリスクは決して無視できるものではない。

 

④オプションを組み込む際、得られるはずのオプション・プレミアムから一定の手数料が引かれるため(仕組段階の手数料。仕組債を組成する金融機関の収益)、販売会社が顧客に売る際の手数料(販売段階の手数料)と合わせて、顧客は相応のコスト負担をしている。
 加えて、早期償還による買い替えのたびに販売段階の手数料が発生することから、リスク対比のリターンが株や債券などと比べて悪く、リスクに見合ったリターンが得られていないと考えられる。

 

⑤商品性と苦情事例を踏まえると、一般的な債券と大きく異なるリスクを引き受けていることの認識が必ずしも十分ではない中で、相対的な高金利が魅力的に見えている可能性がある。
 実際にはリスクに見合ったリターンが得られていないことも踏まえれば、株価(株価指数)が一定水準を下回ることはないというリスクの過小評価の問題や実質的に負担しているコストがわからないためにリターンを適切に評価できないという問題があるとも考えられる。

 

⑥EB債は、商品性が極めて複雑で、理解することが困難である上に、実際にはリスクに見合うリターンが得られないことが多い商品と考えられる。
 リスク選好が強い一部の限定的なニーズがあることまでは否定できないにしても、中長期的な資産形成を目指す一般的な顧客ニーズに即した商品としてはふさわしいものとは考えにくい

 

〔金融庁が示した仕組債の「販売態勢に関する問題点」〕
①仕組債は商品性が極めて複雑であることから、他の金融商品と比べても特に充実した丁寧な説明が求められるが、顧客からの苦情・相談から判断すると、商品性を十分理解しないままに仕組債を購入している例が少なくないと考えられ、金融機関側の説明が不十分であることがうかがわれる。
 具体的には、まず、顧客が実質的に負担するコストが開示されていない点である。金融庁「顧客本位の業務運営に関する原則」の原則4は、「名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細」の明確化を求めている。仕組債の場合、販売会社が仕組債の販売時に把握している公正価値(販売時の時価)と顧客に販売した価格との差が、顧客の負担する実質的な費用(販売段階と組成段階を合わせた全体のコスト)として顧客に情報提供されることが望ましい。仕組債のコストについては、重要情報シートによる開示が始まっているが、現段階では、販売段階でのコスト開示にとどまっている先がほとんどで、組成段階を含めた全体コストについて開示を行っている金融機関は限られている。
 次に、(コストの不開示を含め)他の運用商品との比較が可能となるような分かりやすく丁寧な情報提供がなされていない点である。仕組債で長期的に運用した場合の期待リターンについて説明がされている例は(ほとんど)ない。このため、顧客が、仕組債のリスク・リターンを把握し、他の運用商品と運用効率の比較等を行うことが困難となっている。
 さらに、そもそも顧客への開示を行うかどうか以前に、販売会社自身が公正価値を知っていなければ、リスク・リターンの評価は出来ない。前提となる公正価値データが把握されていないとすると、顧客による商品理解を確保することは困難と考えられる。

 

顧客の真のニーズに応じた販売が行われていない可能性が高い。私募中心の仕組債では多様な要望への対応が可能であるにもかかわらず、同一スキームの商品が継続的に大量に販売されている点も、金融機関の収益確保のため、プロダクトプッシュ型の提案になっている可能性を示唆していると考えられる。
 各販売会社は、仕組債の商品性も踏まえて、「顧客の長期分散投資には適さず、提案すべき顧客層は極めて限られる」としつつも、限られた顧客に絞って販売する態勢を十分に整備していない先も見受けられた。仕組債がどういった資産運用を望む層に適したものか、具体的にどんな金融リテラシーがある顧客ならリスク判断できるかを明示する例はなく、そうした中で、営業現場において、真に顧客ニーズを確認できるかは課題があるように見受けられる。
 また、真に商品を望むリスク選好が強い顧客にのみ販売されているかの事後モニタリング体制についても十分整備されているケースはほとんどない。このため、顧客ニーズに即した販売がなされているかを確認することが困難となっており、苦情発生の背景となっているものと考えられる。

 

③マクロデータからは、仕組債の販売の実態が回転取引類似の状況にあることが見受けられる。
 販売額全体は増加傾向にあるが、早期償還されるものも少なくないため、残高が対前年度比で増えていない。換言すれば、顧客が1年間に1回程度、売買を繰り返していることになるが、真に顧客主導で取引が行われているかの検証は必要と考えられる。

 

〔金融庁の見解のまとめ〕
 仕組債、特にEB債は、商品性そのものと販売態勢双方において課題が見受けられるが、多くの金融機関はコンプライアンス(コンダクト)・リスクに対して、十分な対応をとっていない状況と見受けられる。
 金融機関は、仕組債、特にEB債は複雑な商品性を有しているため、顧客によっては理解が困難な上、実際にはリスクに見合うリターンが得られない場合がある点を踏まえる必要がある。その上で、コンプライアンス(コンダクト)・リスクも踏まえて、取扱いを継続すべきか否かを検討し、継続する場合はどのような顧客を対象にどのような説明をすれば真のニーズを踏まえた販売となるのか、経営レベルにおいて議論すべきであると考えられる。

(2022年10月3日)