〔裁判で問題とされた仕組債(EB債)の商品特性〕
〔証券会社が顧客に負うべき説明義務の内容〕
金融商品取引においては、顧客と業者との間に、情報、知識等に大きな格差があるのが通常である。このため、証券会社が顧客に取引を勧誘するに当たっては、顧客が自己責任をもって取引を行うことができるようにするため、取引の内容や顧客の知識、経験等に応じて、顧客が取引の基本的な仕組み及びそのリスクを具体的に理解できるように必要な情報を提供し、これを説明する信義則上の義務を負い、当該義務を尽くさずにされた勧誘行為は、不法行為を構成する。
本件EB債の商品特性に鑑みると、大和証券は、顧客に対して本件EB債の購入を勧誘するに当たり、本件EB債の基本的な仕組み及びリスクとして、利払いの内容及び利率の決定条件、期限前償還の条件及び内容等のほか、特に、本件EB債には、株価変動リスク、元本毀損リスク、流動性リスク等があることを説明する義務を負っていた。
そして、その説明の程度としては、顧客が、本件EB債の購入当時、78歳と相応に高齢であり、本件EB債の基本的な仕組みやリスクを自ら調査することは困難であったといえること、大和証券との間で長年にわたり金融商品取引を行ってきた経験があるものの、その内容は、国内外の株式や債券、投資信託等の比較的仕組みが単純なものが中心であったこと、本件EB債の購入は、顧客の投資用資産の約半分に当たる20万ドルを投資するものであり、リスクとリターンを比較した慎重な判断が求められるものであったことに照らすと、大和証券は、このような属性の顧客に対し、本件EB債のリスクを適切に理解し、自己責任をもって投資することができる程度に説明する義務を負っていたというべき。
〔大和証券が説明義務を果たしていなかったこと〕
本件EB債交付書面は、「ノックイン」、「参照銘柄」、「期限前償還」、「ノックイン参照価格」、「ノックイン基準価格」、「償還参照価格」、「転換価格」等の難解な用語が多用されている上、ノックインが発生して株式で償還されることとなる場合の交付株式数についても、一券面金額÷転換価格で算出される確定株式数以下の売買単位の最大整数倍の数などと一見して理解が容易でない記載がされている。
また、本件EB債交付書面のうち「ヒストリカルデータに基づく想定損失」と題する書面には、本件EB債について、平成12年4月から平成27年3月までの参照銘柄の株価のうち、最大値から最小値までの変化率に基づき算定される想定損失が-75.86%であることなどが記載されていた。しかしながら、当該資料は、本件EB債について、参照銘柄の過去の株価変動等に照らして想定される最大の損失割合を示すにとどまり、実際にそのような株価変動及び元本毀損のリスクが現実化する可能性やこのような損失が生じ得る具体的な仕組みについてまで言及するものではなく、B課長が顧客に対してノックインが発生する可能性やそのリスクを過少に見積もる説明をしていたことに照らせば、同資料を交付し、これに一応は沿った説明をしたことをもって、本件EB債の株価変動リスク及び元本毀損リスクに関して十分な説明がなされたと評価することはできない。
これらの事情に鑑みれば、上記の属性を有する顧客において、本件EB債交付書面の内容自体から、本件EB債の株価変動リスク及び元本欠損リスク、特に株価の変動により元本毀損が生じる仕組み及びその程度を理解することは困難というべき。
〔顧客の落ち度による認容額の減額(6割の過失相殺)〕
顧客は、相応の投資経験等を有しており、本件EB債について少なくとも預貯金の利率より高率の利息を受け取ることができることは認識していたのであるから、本件EB債には、当該リターンに応じた相応のリスクがあることを容易に想像することができたというべきである。
それにもかかわらず、顧客は、この点について質問をすることもなく、顧客の理解を確認する本件EB債確認書にも漫然とチェックをし、本件EB債の購入に至ったものである。
このような事情からすると、本件EB債の取引による損害の発生について、顧客には相応の過失があったといわざるを得ないなどの理由から、6割の過失相殺をするのが相当である。
(2023年1月18日)