市役所などの市民法律相談において、「子どもがどうしようもないので、親子の縁を切りたい」という親側からの相談がときどきあります。
親が子どもと「縁を切る」ということの具体的な意味として、①法律上の親子関係を解消したい、②子どもに相続させたくない、の2つに分けて考えてみます。
まず、①の法律上の親子関係の解消については(特別養子縁組をする場合を除いて)できません。実の親子にあっては、夫婦の場合の離婚や、養親子関係における離縁のような制度がないからです。
もっとも、成人した子どもが何か不祥事をした場合に、親が、親であるという理由だけで連帯して法的な責任を負う制度はありません。結局、子どもが成人していれば、法律上の親子関係があったとしても、第三者との関係では親の責任の有無に影響はありません。ただし、法律上の親子間には扶養義務がありますので、具体的な扶養の程度や内容はケースバイケースとはいえ、親族内部においては親であることにより一定の義務が発生することがあります。
次に、②子どもに相続させないことは法律上可能です。具体的には、法定相続人になる予定の人(いわゆる推定相続人)に、虐待や侮辱などの著しい非行があった場合に、家庭裁判所に請求して相続人としての資格を剥奪する「廃除」という制度があります。ですので、親が子どもを所定の手続によって「廃除」できれば、子どもに相続させないことができますが、子どもに子ども(つまり孫)がいる場合は、孫が子どもの代わりに相続してしまうことになります(これを代襲相続と言います)ので注意しましょう。
なお、「廃除」の手続をしなくても、遺言の中で「何も相続させない」と書くことはできますが、それだけだと子どもに遺留分がありますので、遺言では完全に相続させない方法としては不十分です。
ということで、実の親子である以上は、法律上、完全に縁を切ることはできません。もちろん、事実上、子どもと連絡をとらないことで俗にいう絶縁をすることはできますが、そうしていても、法律上は死ぬまで親子関係が続くことになります。