金融庁は、2022年5月に、「資産運用業高度化プログレスレポート2022」を発表しています。
このレポートは、2019年4月に個人向けに販売されたEB債856本をサンプルとして調査を行ったもので、以下のような金融庁の見解が示されています。
- EB債では、ノックインすると株価下落時には大きな損失が発生しやすい一方で株価上昇時にはノックアウトにより額面償還されるため、アップサイドのリターンは限定される。
- EB債のノックインとノックアウトの仕組は、株式のプットオプションの売りポジションに類似していて、しばしば「EB債には実質的にプットオプションの売りが組み込まれている」と指摘される。株式のプットオプションを売ると、そのオプションが参照する株価の下落に伴って損失が非常に大きくなるが、EB債でも同様に株価下落に伴って損失が拡大する。その一方で株価上昇時には額面で償還されるため、リターンは限定されている。
- プロの機関投資家の間でも、株式のプットオプションの売りを引き受ける投資家は少なく、リスクの高い取引として認識されている。EB債の購入者は、個人投資家が一般的な債券のリスクとして抱くイメージとは大きく異なるリスクを引き受けることになる。
- 調査したサンプルの中には、僅か3か月で元本の8割を毀損した例もあり、リターンの分布をみると、頻度は少ないものの損失率の裾野が広い。リスク(分布の標準偏差)は相応に高く、いわゆるテールリスクと呼ばれる。
- EB債のリターン実績を他の資産クラスの長期的なリスク・リターン比と比べると、EB債のリターンはリスクに見合うほど高いとは言えない。商品特性上、株式との相関が強い一方で、リスク・リターン比は劣後するため、株式に代えてEB債を購入する意義はほどんどない。
- EB債については、「株式の値上がり益を放棄する代わりに、クーポンは高い」との営業話法が用いられることが多いが、放棄した値上がり益の価値に見合うほどの高いクーポンが設定されているとは言えない。
- EB債は、早期償還が頻繁に発生する仕組となっていることが一般的である。今回のサンプル中、予定満期2.5年以下のEB債についてみると、満期まで継続したのは2割以下。予定満期が2.5年以下のEB債の実現満期は平均で0.62年であった。
- EB債の実質コスト(元本と公正価値との差)は、金融庁の業界ヒアリングや公開情報からの推計に基づくと、投資元本に対して平均5~6%程度と推定されるが、実現満期が0.6年程度と短いため、実質コストを年率換算すると、8~10%程度に達すると考えられる。こうした高い実質コストが、リスク・リターン比の悪さにつながっている。
- 取扱金融機関(販売会社もしくは組成会社)側からみると、短期間で収益を上げやすいため、償還済み顧客に繰り返し、販売する回転売買類似の行動に対する誘因が働きやすい商品性となっている。
- EB債に代表される仕組債の商品性については、仕組債を取り扱う金融機関であれば当然に認識しているはずである。しかし、プログレスレポートと同様の分析を金融機関側が自発的に行って一般の投資家に伝えるような取組みはこれまでされてこなかった。
- 投資信託などの多くの商品では、重要情報シートなどにリスク、リターンやコストの実質値などが掲載されるところ、仕組債も年間販売額が少なくとも4兆円以上に達する規模になっていることを踏まえれば、取扱金融機関各社や業界団体が自主的にデータを集計して定期的に公表するとともに、重要情報シートで組成・販売それぞれの実質コストを開示するなど、顧客向けの情報提供が充実されることが望ましい。
(2022年10月7日)