支払手続に移行すると、預金保険機構のホームページで、対象口座の金融機関、口座番号、口座名義人、消滅した預貯金債権額などを示した上で、支払手続が開始されたことが公告されます。この際には、支払申請をすべき期間も合わせて公告されることになり、支払申請期間は、法律上は30日以上(法11条2項)ですが、運用上は60日以上となっています。
なお、預貯金債権額が1,000円未満の場合は、そもそも支払手続に移行しませんので、分配金は支払われません。
支払申請は、支払申請期間内に、対象口座に係る金融機関に対して行わなければなりませんが、被害者が実際に振込手続をした金融機関を経由して行うこともできます。
支払手続において支払を受けられるのは、対象口座に係る振込利用犯罪行為により被害を受けた者(資金移転先口座については、資金の移転元となった口座に係る振込利用犯罪行為により被害を受けた者)に限られます。要するに、被害者が直接振り込んだ口座と、その資金移転先口座の残高についてだけ分配金の支払を受けられることになるわけです。
支払申請の際には、所定の申請書に必要事項を記載し、本人確認書類、振込明細書等の被害者であることの疎明資料、弁護士などの代理人により申請をするときは委任状などの代理権を証する資料などを添付しなければなりません。
支払申請期間内に申請を行わなければ、相続などの一般承継があった場合を除き、支払手続に従った分配を受けることはできないため、被害者としては、支払申請期間をチェックしておく必要があります。もっとも、金融機関は、被害を受けたことが疑われる者に対し、支払手続に関する情報提供措置を適切に講じるとされていますので(法11条4項)、実際には、被害者やその代理人である弁護士などに対して、支払申請期間が始まることを個別に連絡していることがあります。このような観点からすれば、金融機関に対して被害者であることをあらかじめ申し出ておくことが有益といえます。
金融機関が支払該当者を決定する際には、それぞれの被害者の「犯罪被害額」を定める必要がありますが、ここでいう犯罪被害額とは、振込利用犯罪行為により失われた財産の価額から控除対象額(すでに被害金の一部について填補または賠償がされている場合の填補または賠償額の合計)を控除した額のことをいいます。
そして、支払手続によって具体的に支払われる被害回復分配金の額は、犯罪被害額の総額より預貯金債権額が多い場合は、犯罪被害額がそのまま支払われることになり、預貯金債権額の方が少ない場合(これが通常のケースです)は、それぞれの犯罪被害額に応じて按分した額が支払われることになります。
(2024年1月11日)