
不動産の賃貸借契約をしていたところ、賃借人が亡くなってしまった場合、それだけでは賃貸借契約は終了しませんので、賃借人の立場は、賃借人の相続人に引き継がれることになります。なお、賃借権を譲渡する場合と異なり、相続によって賃借権が引き継がれる場合には、賃貸人の承諾も必要ありません。
したがって、賃借人が亡くなった場合に、賃貸人としては、まずは、賃借人の相続人が誰で、連絡先はどこかを調査することが必要になります。
もちろん、相続によって新しく賃借人の立場を引き継いだ人が、賃貸借契約を続けることを希望しない場合には、賃貸人と新しい賃借人との間で合意の上、賃貸借契約を終了させることもできます。
なお、タダで貸している場合(「使用貸借契約」といいます)は、賃貸借契約の場合とは異なり、賃借人の死亡によって使用貸借契約は当然に終了します。
賃借人が亡くなっても賃貸借契約は終了せず、相続人に賃借人の立場が引き継がれますが、具体的に誰が新しい賃借人となるのかは、相続関係の処理を待たなければなりません。
そして、相続人の間で遺産分割協議が行われるなどして、誰が新しい賃借人になるかが決まれば、それ以降、賃貸人は、その新しい賃借人に対して、賃料の請求などをすることになります。
これに対して、賃借人が亡くなった後、新しい賃借人が決まるまでの間に発生する賃料については、相続人全員が支払わないといけない立場にあります。
この賃借人が亡くなった後に発生する賃料は、不動産を利用するという不可分なものに対する対価であることから、いわゆる不可分債務とされており、賃貸人は、遺産分割協議などによって新しい賃借人が決まるまでは、それぞれの相続人に対して、賃料「全額」を請求できます(つまり、賃貸人は、各相続人の相続分に応じて分けて請求する必要はなく、誰か一人に請求して支払ってもらうことができます)。
なお、貨借人が亡くなる「前」にすでに発生していた賃料支払債務(要するに、亡くなった賃借人が賃料を滞納していた場合)については、亡くなった後に発生する賃料とは異なり、単なる金銭債務(≠不可分債務)として、各相続人が分割して支払うことになります。
(2025年8月23日)