詐欺的な投資被害事案における口座名義人の責任

詐欺的な投資被害事案における口座名義人の責任

〔振り込んだ口座の口座残高からの回収〕
 銀行口座が詐欺的な投資勧誘に用いられていた場合、銀行による判断によって、その口座が凍結(入出金の停止)されることがあります。
 口座が凍結されているかは、誰でも預金保険機構の「振り込め詐欺救済法に基づく公告」で検索をすることができ、凍結されていれば、その口座に残されている残高も知ることができます。
 そして、口座残高がある程度残っているケースであれば、その口座に振り込んだ被害者は、振り込め詐欺救済法に基づく手続きに従って、金銭の分配を受けることができます。もっとも、詐欺に用いられるような口座にいつまでも多額の残高が残っているケースは少ないので、凍結された時期にもよりますが、振り込め詐欺救済法による手続きでは、満足な分配を受けることは通常は難しいと言えます。
 なお、口座残高がある程度残っている場合には、振り込め詐欺救済法に基づく分配を待つのではなく、口座の仮差押えという裁判上の手続きをすることによって、口座残高を独り占めすることも検討しなければなりません。  

 

〔口座名義人の法的な責任〕
 詐欺的な投資勧誘において、お金を集める方法として銀行口座が用いられた場合、当然ながら、詐欺的な投資勧誘を行う者は、自分の正体が明らかになるような銀行口座をそのまま使うことはありません。
 そのため、何らかの方法で自分とは関係のない者の口座を手に入れたり、口座を使わせてもらうなどして振込先口座に指定することになります。
 しかしながら、正当な理由なく、通帳・キャッシュカードを譲り渡すor譲り受ける行為、ネットバンキングのログインID・パスワードの情報を譲り渡すor譲り受ける行為は、犯罪収益移転防止法で、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられる犯罪行為とされています。
 したがって、詐欺的な投資勧誘に用いられた銀行口座の名義人は、自分自身が投資勧誘自体に直接関わっていなかったとしても、刑事上あるいは民事上(損害賠償)の責任を負うことがあります。

 

〔口座に振り込んだ場合の「口座名義人」からの回収に関する裁判例〕

東京高裁平成26年7月10日判決

ア.本判決は、121関連ファンド商法(FX自動売買ソフト商法)において資金の受け入れ先の口座を提供していた業者(控訴人IST)が、自社は収納代行業者として、クレジットカード発行事務の委託を受けてこれに伴う受送金を行っていたに過ぎないなどと主張して争った事案です。
イ.これについて、東京高裁は、以下のとおり判示して、口座提供者である口座名義人の損害賠償責任を認めています。
「121商法は、顧客から121FX取引への投資名目で資金を集めていたものの、投資勧誘の際に説明していた資金管理、運用の実体はなく、Bが、顧客から集めた資金を他に流用していたことを認め、また、顧客から集めた資金について使途や返済の目処について具体的な説明をしていないことからも分かるとおり、詐欺的商法というべき」
「控訴人IST(具体的には代表取締役の控訴人Y2)は、121商法に利用されることを知りながら本件IST名義口座を顧客からの証拠金名目の送金先とし、送金された金員をその都度指定された121BANK名義又は121FX株式会社名義の口座に送金したものであり・・・控訴人ISTは、被控訴人に生じた出資金相当額の損害を賠償するべき不法行為責任を負うというべき」

 

東京高裁平成26年9月17日判決

ア.本判決は、121関連ファンド商法の事件において、資金の受け入れ先の口座を提供していた業者(第1審被告アイエス)およびその役員の責任が問題となった事案です。
イ.これについて、東京高裁は、以下のとおり判示して、業者や役員の損害賠償責任を認めています。
「第1審被告アイエスの代表取締役である第1審被告Y2は、Dを首謀者とする違法な詐欺的商法である121商法に利用されることを認識し、又は少なくとも容易にこのことを認識することができたにもかかわらず、本件送金口座2を顧客からの送金先とし、本件送金口座2に送金された金員を指定された121FX名義又は121BANK名義の預金口座に送金していたものと認めるのが相当である。したがって、第1審被告アイエスは、不法行為に基づき、第1審原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。
そして、上記のとおり、第1審被告Y2は、Dを首謀者とする違法な詐欺的商法である121商法に利用されることを認識し、又は少なくとも容易にこのことを認識することができたのであるから、第1審被告アイエスの職務を行うについて悪意又は重大な過失があるというべきであり、会社法429条1項に基づき、第1審原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。」

 

東京地裁平成27年3月4日判決

ア.本判決は、馬券に関する情報料名下に金銭を詐取された原告が、被告は、氏名不詳の詐欺行為者に口座を提供することにより、同詐欺を幇助したなどと主張して、口座提供者である被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案です。
イ.これについて、東京地裁は、以下のとおり判示して、口座提供者の不法行為責任を認めています。
「被告が、本件犯人と共謀して、本件詐欺行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、前提事実に加え、証拠によれば、被告が開設し他人に提供した本件口座が本件詐欺行為に用いられたものであると認められ、したがって、外形的、客観的に見ると、被告が本件口座を提供したことは、本件詐欺行為の実行を容易にするものであったといえる。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成19年頃、複数の消費者金融に対し、約500万円を超える負債を有していたところ、紹介屋にいわゆるヤミ金業者を紹介され、利率を10日で3割から10万円につき1か月5500円に引き下げる条件として、本件口座を担保として提供することを受け入れ、本件口座に係るキャッシュカード等を当該ヤミ金業者に交付し、その後、本件口座の利用停止措置を取ることもなかったことが認められる。
ところで、他人名義の預貯金口座は、いわゆる振り込め詐欺等の犯行の道具として使用されたり、犯罪による収益の隠匿に利用されたりすることから、犯罪による収益の移転防止に関する法律は、預貯金口座を他人に提供する行為のうち一定の行為について刑罰をもって禁止している。もっとも、被告が上記の口座提供行為を行ったのが、最初の本件送金がされた平成19年3月8日より前であることは明らかであるところ、同日の時点においては、上記の規定は未だ施行されていなかったものであるが、当時、既にいわゆる振り込め詐欺等が社会問題化していたことは、公知の事実であり、上記認定の経緯からすると、被告は、その提供する本件口座が他人によって何らかの不正な行為に用いられることのみならず、本件のような詐欺的な取引の代金の送金先として用いられ、他人が口座の名義人になりすまして送金された金員を引き出してこれを取得することを容易に知り得たものと認められる。
以上によれば、被告は、過失によって本件詐欺行為を幇助したものというべきであり、不法行為責任を免れない。」

 

東京地裁平成29年5月10日判決

ア.本判決は、原告が、出会い系サイトの運営者(実態は不明)によりサクラからの虚偽のメッセージを受け、これに応じて多額の金員を振り込んだところこれを詐取されたサクラサイト商法の事案であり、被告会社らは本件詐欺の送金先口座の名義人となっていたものです。
イ.これについて、東京地裁は、以下のとおり判示して、口座名義人である被告会社やその代表者の不法行為責任を認めています。
『本件詐欺当時、既に、振り込め詐欺の「出し子」に関する報道も多く行われていた中で、本件サイト運営者の実体やFなる者の素性もよく確認しないまま、犯罪収益移転防止法により罰則をもって禁止されている、第三者へ有償によって口座提供をするという契約に至る動機・経緯自体が怪しいものである上、そこに振り込まれた現金を引き出してはこれを交付するという業務自体に何の問題も感じなかったというのは不自然である。』
『被告Y2は、本件サイト運営者に関する収納代行について、「ソーシャルネットワークサービスに関わる事業の収納代行」であるとしか聞いていなかったし、犯罪行為に加担するわけにいかないことを理解していたため、インターネットを巡回するなどして情報収集に努め、そこまでしてもなお本件サイト運営者が犯罪に関与している可能性を示す材料はなかったのであるから、不法行為責任を問うことはできないと主張し、ソーシャルネットワークサービスに関する収納代行であるとの説明を受けたという被告Y2の陳述書を提出する。
しかし、同陳述書の内容は何ら具体的なものではなく、仮に、そのような説明があったとしても、それはすなわち口座提供先に代わって代金を受領する業務として違法となるものといえ、その契約のもとで被告Y2は、頻繁に現金を出金し、それを本件サイト運営者に手渡していたというのであるから、被告Y2としては、こうした自らの行為が、いわゆる振り込め詐欺の「出し子」にあたることについては十分認識していたものといえるのであって、被告フロンティア及び被告Y2は、まさに本件サイト運営者と一体となって詐欺行為を行っていたものと認めるべきであって、被告フロンティア及び被告Y2の上記主張は採用できない。』

(2023年3月22日)