日本証券業協会が仕組債の販売に関し、ガイドラインなどの改正案を公表

日本証券業協会が仕組債の販売に関し、ガイドラインなどの改正案を公表

〔日本証券業協会の自主規制規則〕
 日本証券業協会は、協会員である証券会社の自主規制規則として、「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」(いわゆる「投資勧誘規則」)を定めており、この中で「合理的根拠適合性」(3条3項)、「重要事項の説明」(3条4項)、「勧誘開始基準」(5条の2)に関する規制などが定められています。

○合理的根拠適合性
協会員は、当該協会員にとって新たな有価証券等の販売を行うに当たっては、当該有価証券等の特性やリスクを十分に把握し、当該有価証券等に適合する顧客が想定できないものは、販売してはならない

○重要事項の説明
協会員は、有価証券の売買その他の取引等に関し、重要な事項について、顧客に十分な説明を行うとともに、理解を得るよう努めなければならない

○勧誘開始基準
協会員は、顧客に対し、店頭デリバティブ取引に類する複雑な仕組債などに係る販売の勧誘を行うに当たっては、勧誘開始基準を定め、当該基準に適合した者でなければ、当該販売の勧誘を行ってはならない

 これらの規制に関する日本証券業協会の解釈・考え方を示したものとしてガイドラインがあり、「合理的根拠適合性」については「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則第3条第3項の考え方」(合理的根拠適合性ガイドライン)が、「重要事項の説明」については「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則第3条第4項の考え方」(重要事項説明ガイドライン)が、「勧誘開始基準」については「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則第5条の2の考え方」(勧誘開始基準ガイドライン)というものがそれぞれ定められています。

 

〔仕組債に関するガイドラインなどの改正案とパブリックコメント〕
 2023年2月15日、日本証券業協会は、複雑な仕組債等を取り扱う協会員の裾野の拡大、商品性の多様化や当時はあまり想定されなかった販売形態の出現など、その環境に大きな変化が見られており、それに伴い複雑な仕組債等の販売勧誘に関して投資者から寄せられる苦情件数の増加や問題点の指摘がなされている状況を踏まえ、複雑な仕組債等について、顧客に対する適切な販売勧誘を実現するため、投資勧誘規則、関係ガイドラインなどについて一部改正を行うこととし、2023年3月16日まで意見募集(パブリックコメント)を実施しています。
 なお、改正されたガイドラインなどの施行は2023年7月1日からとなっています。

 

〔改正案の内容に関するポイント〕
 改正案の内容について、仕組債被害による損害賠償請求に関係の深い部分を以下に抜粋します。

「投資勧誘規則」の改正

 投資勧誘規則では、協会員は、顧客と有価証券等の販売に係る契約を締結しようとするときは、あらかじめ、顧客に対し注意喚起文書を交付しなければならないとされていますが、仕組債については、契約の前1年以内に同種のものを販売していれば交付する必要はないとされていました。
 改正案では、仕組債について、1年以内に同種のものを販売していたとしても、契約を締結しようとする都度、注意喚起文書を交付しなければならないとされています。

「合理的根拠適合性ガイドライン」の改正案の内容
  • 複雑な仕組債等を始めとする複雑でリスクの高い商品については、経営陣(代表取締役又は代表執行役)が適切に関与することが必要
  • 経営陣は、販売対象顧客と購入顧客との乖離、当該商品に係る取引や苦情の状況等について定期的に把握し、必要に応じて合理的根拠適合性の検証結果の確認や検証態勢の見直し、販売勧誘態勢の見直しを行う必要がある
  • 複雑な仕組債等については、社内の検証プロセス及び検証責任者を明確にするとともに、組成会社又は自社組成部門等から当該複雑な仕組債等の理論価格を入手し、販売価格との差額の妥当性を検証するなど、定量的かつ合理的な方法で検証する必要がある
  • 複雑な仕組債等については、少なくとも、例えば、想定顧客属性と整合的か、最大想定損失額を踏まえた損失を許容できるか、店頭デリバティブ取引に類するという商品性やリスクとリターンを理解できるか、参照指標の動向について見通しをもつことができるか等の観点から、顧客属性や金融資産の状況、投資目的、投資経験、リスク許容度等を勘案して、販売対象顧客の有無及び範囲を検証する必要がある
  • 「勧誘開始基準」は一定のリスクグレード群ごとに基準を設定することが認められているのに対し、「販売対象顧客」は個々の有価証券等ごとに検証するものであるため、一般的には「販売対象顧客」は「勧誘開始基準」に比べ、より具体的・より限定的な基準により検証する必要がある
  • 「販売対象顧客」に適合しないことが明らかな顧客に対しては勧誘を行わないなど、「販売対象顧客」以外への販売が広がらないよう十分に留意する必要がある
  • インターネット販売においても、販売対象顧客の範囲に沿った販売がされるよう、画面上での顧客の意思表示の仕組みや表示等を工夫する必要がある
  • 関係会社等から顧客紹介を受けて金融商品の提供を行うビジネスモデルを採用する協会員においては、当該関係会社等の役職員が個別商品の示唆や説明など顧客紹介行為の範囲を超えて顧客紹介がなされることないよう当該関係会社等と連携し、自社における複雑な仕組債等の販売対象顧客の考え方を顧客紹介元となる関係会社等に共有すること等により、販売対象顧客に合った顧客紹介が行われるよう配慮する
  • 複雑な仕組債等については、自社における販売対象となるべき顧客の有無及び範囲を検証する基準として少なくとも以下のような基準により検証する必要がある旨を示す。
    1. 想定顧客属性と整合的な顧客
    2. 複雑な仕組債等のリスクとリターンに即した投資目的・投資意向を有している顧客(※一定の投資ニーズ(例:「キャピタルゲインではなくクーポンを求めるニーズ」、「高い利回りを求めるニーズ」、「債券に投資したいというニーズ」)を有することのみをもって、リスクとリターンに即した投資目的・投資意向を有している顧客とはならないことに留意が必要)
    3. 保有金融資産の額が一定金額以上の顧客(※複雑な仕組債等のリスクが顕在化した場合でも、顧客の保有金融資産に大きな影響が及ばないような基準を設定するよう留意が必要)
    4. 保有金融資産のうち、リスク性金融資産の割合が●割未満の顧客
    5. デリバティブ取引に類するという商品性やリスクとリターンを理解できる投資経験や知見・知識を有する顧客
    6. 参照指標の動向について見通しをもつことができる投資経験や知見・知識を有する顧客

     

    「重要事項説明ガイドライン」の改正案の内容
  • 複雑な仕組債等を販売する際の説明に係る「重要な事項」として、「販売対象顧客の属性、リスクとリターンや流動性などの商品性、資金の性質や顧客が保有する金融資産に占める割合に照らして、当該仕組債の購入が顧客に適していると考えられる旨とその理由」、「ノックイン条項が付されている場合、ノックイン条件(参照指標が複数の場合、それぞれの指標に対するノックイン条件)及びノックインが生じた場合と生じなかった場合の償還損益及び償還方法の違い」、「早期償還条項が設定されている場合、その旨、早期償還となる条件(ノックアウト条件、発行体によるコール条項等)及び早期償還した場合にはその後の金利が受け取れなくなり、同等の条件での投資ができるとは限らない旨」などを追加する
  • 早期償還後に再度勧誘する場合も説明を簡略化すべきではない旨、重要事項の理解を妨げるような説明(高金利、高格付、保証付、確定利付であることの過度な強調、ノックイン水準が低いこと等を理由にノックインが発生する可能性が低いことを強調し、安心感を与えるような説明を行うこと)をすべきではない旨、及び説明の際に顧客が正しくリスクを理解していることに不安が残る場合には、勧誘を継続すべきか慎重に検討すべき旨を追加する。
  • インターネット取引において個別の顧客への勧誘を伴わない場合には、「販売対象顧客の属性、商品性、資金の性質や顧客が保有する金融資産に占める割合に照らして、当該仕組債の購入が顧客に適していると考えられる旨とその理由」の説明は、当該仕組債の購入が自らに適していることを顧客自身が確認する方法とすることも考えられる旨
  •  

    「勧誘開始基準ガイドライン」の改正案の内容
  • 複雑な仕組債等の勧誘開始基準の設定にあたり、デリバティブ取引に類するという商品性やリスクとリターンを理解することができない顧客や参照指標の動向についての見通しをもち得る知見・知識を有しない顧客が勧誘対象に含まれないよう、一定の投資経験がない顧客は、たとえ他の基準を満たしていたとしても勧誘対象に含まれることのないように基準を設定する必要がある旨を示す。また、勧誘対象とすべきでない顧客類型として、「例えば安定運用を目的としているなど大きな損失が発生した際には想定していた生活の維持又はライフプランの実現が困難となるような顧客」を示す。
  • 顧客が勧誘開始基準に適合していることをもって、直ちに複雑な仕組債等の勧誘を行うことが適当であると判断するのではなく、「販売対象顧客」に適合しないことが明らかな顧客は 勧誘対象として適切な顧客とは言えない旨を追加する
  • 販売に当たっては、当該複雑な仕組債等の購入が顧客に適していると考えられる理由があるかを慎重に検討し、当該顧客への説明と確認を行ったうえで、当該複雑な仕組債等の参照指標の動向についての当該顧客の見通しを確認することも考えられる旨、一定の投資ニーズがあることだけをもって販売を行うことのないよう留意する必要がある旨を追加する

(2023年2月15日)