振り込め詐欺救済法の実務① ~預貯金口座の凍結~

振り込め詐欺救済法の実務① ~預貯金口座の凍結~

口座凍結と振り込め詐欺救済法の関係

 預貯金口座が凍結されることにより、口座の入出金いずれもができなくなりますが、口座凍結自体は各金融機関の預貯金規定(例えば、「この預金が法令や公序良俗に反する行為に利用され、またはそのおそれがあると認められる場合」は預金取引を停止するなどと定められています)を根拠に各金融機関の判断で行うことができます。つまり、振り込め詐欺救済法に基づいて口座凍結をしているわけではありません。
 もっとも、振り込め詐欺救済法3条1項では、「金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるときは、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講じるものとする」と規定されています。

口座凍結の具体的な流れ

 口座凍結を行う主体は各金融機関ですが、通常は、その口座に振り込んだ被害者などから口座凍結の要請があり、その上で、各金融機関が口座凍結を行うことになります。
 この点について、振り込め詐欺救済法3条1項では、「捜査機関等から・・・情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるとき」に口座凍結するとされており、この「捜査機関等」に関し、全銀協ガイドラインでは、捜査機関、弁護士会、金融庁および消費生活センターなどの公的機関ならびに弁護士、認定司法書士がこの「捜査機関等」に該当するとされ、これらから通報があった場合はすみやかに口座凍結を実施するとされています。
 他方で、被害者本人から金融機関に対して被害の申し出があった場合は、振込が行われたことが確認でき、他の取引の状況や口座名義人との連絡状況などから、直ちに口座凍結を行う必要がある場合に口座凍結を行うとされています。つまり、被害者本人からの口座凍結要請については、金融機関の判断がより慎重になり、口座凍結されないことも多々あります。
 いずれにせよ、犯罪利用預金口座であるかどうかについて正確な調査をしないまま漫然と「詐欺に違いない」と決めつけて口座凍結要請をしてしまうと、結果的に犯罪利用預金口座でなかった場合に、口座名義人から損害賠償請求訴訟を提起される可能性もあるので注意が必要です。

資金移転先口座の凍結

 振り込め詐欺救済法は、振込先となった預貯金口座だけでなく、資金移転先口座についても適用があります(法2条4項2号)。
 口座が犯罪に利用される場合、振込先の口座にいつまでもそのまま預貯金が残っているケースは少なく、すぐに出金されたり、他の口座へ資金を移されたりするケースがほとんどです。そこで、被害者が直接振り込んだ口座だけでなく、その口座から資金が移転した先の口座を合わせて「犯罪利用預金口座等」として、振り込め詐欺救済法法の適用対象としています。
 なお、金融機関は、資金を移転する目的で利用された疑いがある他の金融機関の預貯金口座があると認めるときは、当該他の金融機関に対して必要な情報を提供するとされており(法3条2項)、これによって、当該他の金融機関においても資金移転先口座の凍結がなされ、その口座からの分配が期待できることになります。

(2024年1月10日)