

建物賃貸借契約において、賃借人の賃料債務などについて賃料保証会社が保証するケースが増えています。
では、賃借人が賃料を滞納したとしても、賃料保証会社が代わりに滞納分を支払っていれば(これを「代位弁済」といいます)、賃貸人は賃料不払い(賃借人の債務不履行)を理由として賃貸借契約を解除することはできないのでしょうか。
賃料保証会社による代位弁済は、賃借人と賃料保証会社との間の「保証委託契約」に基づく肩代わり(立て替え)に過ぎません。
そして、代位弁済が行われると、賃借人の未払賃料債務は、賃料保証会社に対する求償債務(立て替えてくれた保証会社に対して、立替分を支払う債務)に代わりますので、賃借人の未払賃料債務は消滅することになります。
他方で、賃貸人が代位弁済によって賃料相当額の支払を受けていたとしても、それは、賃借人が、賃貸借契約に基づいて自ら支払いをしたわけではありませんので、賃料支払債務を賃借人自らが履行していなかったという事実は残ります。
この問題についてのリーディングケースとされていた有名な裁判例として、大阪高裁平成25年11月22日判決があります。
この裁判例の事案は、賃借人が賃料を滞納し、保証会社が家主へ10カ月分を代位弁済したが、家主は賃料不払いを理由に契約解除を求めたというもので、判決では、保証会社の支払はあくまでも「保証委託契約」に基づくものであり、賃借人による賃料の支払ではないから、債務不履行の有無を判断するにあたって、代位弁済の事実を考慮することは相当ではなく、賃貸借契約の解除を妨げないと判示しています。
そして、この大阪高裁判決に対しては、賃借人から、上告と上告受理申立がされましたが、最高裁判所はそのいずれも認めず、高裁判決が確定して終わりました。
ところが、大阪高裁判決から9年後に出されたこの最高裁令和4年判決では、一般に、賃借人に賃料等の支払の遅滞がある場合、賃料債務等につき「連帯保証債務の履行があるときは、賃貸人との関係においては賃借人の賃料債務等が消滅するため、賃貸人は、上記遅滞を理由に原契約を解除することはできず、賃借人にその義務に違反し信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があるなどの特段の事情があるときに限り、無催告で原契約を解除することができるにとどまると解される。」との判示がされるに至りました。
つまり、保証人が賃料滞納分を支払った場合には、賃貸人は、賃料の滞納を理由とする契約の解除はできないという判断です。
この最高裁判決を受けて、下級審判決、例えば、東京地裁令和5年12月26日判決でも、上記最高裁判決を引用した上で、「原告は、全保連による代位弁済は賃借人による賃料の支払ではないから、本件契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、考慮すべきでない旨主張するが、独自の見解であって採用することができない。」と判示し、大阪高裁判決とは異なる判断をしています。
最高裁令和4年判決の射程をどう考えるかは難しいところですが、賃料の滞納があっても、それが保証人の代位弁済により解消されてしまった場合には、滞納があったという事実だけで契約を解除することは、現在では困難になったと言えると思います。
したがって、賃貸人の立場として、保証人がいるケースで契約の解除をしたいということであれば、①保証人による代位弁済が行われる前に解除通知を送って解除を済ませておく、あるいは、②滞納賃料の全部について代位弁済がされていない状態(未払賃料債務を一部でも残す)にしておくことが少なくとも必要になります。
これらによって、一応、賃借人に債務不履行がある状態での解除という形は整いますので、後は、信頼関係の破壊の有無の判断(賃料の滞納があり、代位弁済によって解消されたに過ぎないという事実関係が一つの事情となります)で解除の有効性が決められることになります。
(2026年3月6日)